《第2話》 【数学教師戦】《第2話》 【数学教師戦】中学1年の時から、どうしても好きになれない数学の先生がいた。 なぜ好きじゃないのか、自分でもよくわからないでいたが、3年生になって、理由がわかってきた。 8割くらいは自分のせいなんだけど。 ある日、その先生が授業中、「ここんとこテストに出るから、ノートに書いておけよ」と言ってチョークを黒板にドンドンドンとたたきつけていた。 俺は しらんぷりしてまっすぐ前を見ていた。 だいたい俺はノートに、先生のいうことをほとんど書いたことない。 だいたいが、家で勉強しないんだから、ノートというものが必要ない。 他の生徒は、したを向いて必死に書いている。 俺だけがまっすぐ前を見ている。 先生が言う。 「おまえ、なにやってるんだ。ノート取るんだよー」 俺は余裕で言う。 「だいじょうぶです。もう覚えましたから」 「覚えたってことはないだろ。だめだよ、みんな、書いてんだから。テストにでるんだぞ」とはげしく言う。 「それが、どうしたんですか」 俺は、もちろんとびきりの優等生ではないので、その場で覚えてもすぐ忘れることも多い。 しかし、なにかに抵抗したかったみたいだ。 あるいは、ただひねくれていただけかも。 俺は落ち着いて「先生、そんなにさわいだら、ほかの生徒がノートをとるのに、じゃまになりますよ」とニヤッと笑ってやった。 すると、後ろにいた生徒が「いや、じゃまになんないぞ」とつっこむ。 「なに?あそこがテストに出るそうだぞ」 「それがどうした」 「俺にいうな!」 昔は、三角関数は中学校で勉強した。 先生はsinはこれ割るこれと計算の仕方だけ教えて、例によって「これはテストに出るからな」とまたやる。 生徒がテストの点数ほしさにがんばる気持ちを利用してるんだか、テストで点数さえとれれば教師の役目は終わりというつもりなんだか。 俺には納得できないので、質問してみた。 「先生、そのsinていうのはどういう意味ですか」 「どう言う意味って今説明したばっかりだろ」 「sinの答えの出し方じゃなくて、sinの意味を知りたいんですけど」「意味なんかいいんだよ。これができればテストで100点とれるんだから」 「先生、意味もわかんないで、テストで100点とったって、そのほうが意味ないじゃないですか」 先生は興奮して「100点とるのが意味がないとはなんだ・・・どうしてもわからないのか」 そりゃわからないだろう。 芸能人がするサインとはちがうんだから。 先生はさらに興奮して言った。 「ほかにもわからないのがいるのか。手をあげてみろ」 俺は手をあげながら、まわりを見回した。5・6人の生徒が手をあげている。 不思議な感じがした。 意味もわからずに、言われた通りにすれば100点とれると言われて、疑問をもつのが40人中5・6人かよ。 他の生徒は100点さえとれれば、なんだっていいんだということか。 この国は、おとなもこどももおかしいぞという感じがした。 先生は手をあげたものは、全員放課後補習だという。 まさか、その補習でも、どうだっていいんだ決まりきったことを覚えれば、なんてやるんじゃないだろうね。 放課後、重い気持ちで補習に参加した。 その先生は補習授業で三角関数とは何かを教えてくれた。 “Sin””cos””tan”とは日本語で“正弦”“余弦”“正接”という。 円周上の点と、原点とX軸Y軸の関係を表したそうだ。 何だ最初からそう教えてくれればよかったのに。 という話を先生にした。 先生はなぜか興奮して「この話が聞きたかったのか」という。 「そうです。そういう意味を知らないで100点とったって意味ないですよ」 「また、意味ないか、じゃあおまえが先生やれ」 また先生は興奮状態だ。 「おまえが前に出てきて先生やれ」 困ったもんだな。 しゃーないかと前へ出ていった。 先生は教室の隅に座り「やれ!」と怒っている。 俺が先生やるのねぇ。どんなもんかと思うけど、やったろーじゃねぇか。 「えー、先ほど先生の教えてくださいました三角関数の意味はすごく大事です。ノートには書かないで頭の中に入れてください。・・・他の教科には覚えればすむというものがたくさんありますが、数学だけは覚えるだけではなく考える学問です。この考えることがすごく大事ですからこれからも数学を勉強してよく考えるくせをつけてください。以上です」 先生の方を向いて「はい、先生終わりました」と言った。 先生はまだ不機嫌で「何だもう終わりか、もっとやれよ」と言う。 俺も不機嫌で「俺は生徒ですから先生はやりません。 後は先生がやってください」 「なんだおまえ、後は先生がやれって言うのか」 「そうです。俺は給料もらってませんから」 「なに、給料もらえればやるのか」 「というよりは、先生は給料もらってるでしょうから あとは やってください」 「なに、給料もらってるから俺に先生やれって言うのか」 「そうです。俺たちには勉強する義務がある。でも、先生には教える義務がある。たしかそうでしたよね」 これで黙ったので自分の席にもどった。 おとなになっても感じることがある。 人がやってるから、人が言うから、そういう決まりになってるからとほとんど意味も考えずに世間から百点もらえれば何だっていいんだというタイプの人が多い。 この国は。
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